債権の消滅原因 – 弁済
弁済とは
弁済とは、債務者または第三者が、債務の内容を実現する行為のことです。そして、弁済がなされることによって、債務は消滅します。
弁済の提供
弁済の提供とは、弁済するために必要なことを行い、債権者の協力を求める行為をいいます。例えば、債務者が借金を返済ために、債権者の家に金をもって行くことや、買主が代金を売主の所に持っていくことなどがあげられます。
債務者が弁済の提供を行うと、債務者は以後債務不履行による責任を免れます(492条)。債務者が弁済の提供までしているにもかかわらず債務が履行できなかったのは、債権者の方に問題があるからです。
492条 債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。
弁済の場所と費用
弁済の場所は、特約や慣習がなければ、以下のように定められます(484条)
弁済の場所
特定物の引渡を目的とする債務
債権発生当時にその物が存在した場所で行います。
それ以外の債務
債権者の現在の住所で行います。
とすると、金銭債務はの弁済場所は、原則として債権者の住所とういことになります(持参債務の原則)。
弁済の費用
そして、弁済のための費用は、特約や慣行がない限り、原則として債務者が負担します(485条本文)。例えば、不動産登記のための費用は、登記移転義務を負っている売主(登記移転義務を基準に考えれば債務者です)が負担します。
しかし、債権者の都合で弁済の費用が増加した場合には、その増加額分に関しては、債権者が負担します(485条ただし書)。
弁済の受領
受領証書とは、弁済の受領を証明する書面のことです。受領証書の具体例として、領収書があげられます。受領証書と弁済は同時履行の関係にあります。したがって、債務者は受領証書の交付を受けるまで弁済しないと主張することができます。
債権証書とは、債権を証明する書面のことです。債権証書の具体例として、借用証があげられます。債権証書と弁済は同時履行の関係にありません。したがって、債務者は債権証書の交付を受けるまで弁済しないと主張することはできません。
第三者による弁済
債務者でない者も、弁済をすることができます(474条1項本文)。債務者でない者による弁済のことを第三者による弁済といいます。ただし、債務の性質から第三者の弁済が許されないような場合や当事者が反対の意思を表示した場合には、第三者による弁済をすることはできません(474条1項ただし書)。例えば、絵を描く債務は債務の性質上第三者による弁済は許されません。また、当事者である債権者・債務者が第三者による弁済を認めなければ、たとえ利害関係を有する第三者であっても、弁済することはできません。これは、あくまでも当事者の意思を尊重した規定といえます。
474条1項 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、または当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
また、法律上の利害関係を有しない第三者は、債務者の意志に反して弁済をすることはできません(同条2項)。法律上の利害関係を有する者の具体例としては、物上保証人やその債権を担保する抵当権が設定された不動産を取得した第三取得者などがあげられます。一方、法律上の利害関係を有さず、事実上の利害関係を有するにすぎない者の具体例としては、親や兄弟姉妹などがあげられます。この規定は、たとえ債務者の利益になることであっても、債務者の意思に反してまでその利益を押し付けることは妥当でないからです。しかし、法律上の利害関係を有する者は、債務者の代わりに弁済しなければ、自己が不利益を被る可能性があるので、弁済することができます。
474条2項 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
弁済の受領権限がない者への弁済
弁済は、弁済の受領権限を有するものに対して行われなければ、効力を生じないのが原則です。
しかし、以下の特別な場合は、例外的に有効な弁済として成立します。
債権の準占有者に対する弁済
債権の準占有者とは、あたかも債権者のような外見を有している者のことです。債権の準占有者に対する弁済は、弁済者が善意無過失である限り、有効な弁済となります。債権の準占有者の具体例としては、他人になりすまして預金通帳と印鑑を持参して銀行の窓口に現れた者があげられます。この場合、銀行はその者に預金債務を弁済しても、善意無過失であればその弁済は有効になります。
ちなみに、預金債務とは、銀行等が預金者に対して負っている債務のことです。一方、預金者が銀行に対して持っている債権を預金債権といいます。銀行口座にお金を預金している人は、銀行に対して債権を持っていることになり、銀行は預金者に対して債務を負っていることになるわけです。
受領証書の持参人に対する弁済
弁済をする者が、単に受領証書を所持している者を弁済の受領権限がある者と過失なく信じて、その者に弁済した時は、その弁済は有効となります(480条)。社会通念上、受領証書を所持していれば弁済の受領権限があると考えるのが通常だから、そうした信頼を保護するために、このような規定がおかれています。
ただし、受領証書が偽造されたものである場合は、これに対する弁済は効力を生じません。なぜなら、債権者に何ら関係のないところで受領証書が偽造された場合は、債権者を保護する必要があるからです。
480条 受領証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、または過失によって知らなかったときは、この限りでない。
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