代理人による行為が本人に帰属する条件
以下の3つの要件を満たした場合には、代理人による行為の法律効果が本人に帰属します。
代理権の授与がされていること
代理人による法律行為の効果が本人に帰属するためには、代理権の授与がされている必要があります。代理権の授与なく相手方と法律行為がされれば、無権代理となってしまいます。例えば、Bが、AのためにCとの間で売買契約を締結した場合、その売買契約の効果がAに帰属するためには、AからBへ、Cと売買契約を締結する代理権が授与されている必要があります。
なお、代理権の授与は、委任状を作成しなくても有効に成立します。取引慣行上、代理権の授与において委任状が作成されることが多いのですが、これは後々裁判で問題となったときのために作成しているだけであって、委任状がなければ有効に代理権を授与することができないというわけではありません。
顕名(けんめい)があること
代理人が代理行為をするときは、本人のためにすることを示さなければなりません(99条1項)。例えば、BがAを代理してCと売買契約を締結する場合は、BはCに対して「Aの代理人として売買契約を締結する」旨を伝えなければなりません。
99条1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
代理人が本人の為にすることを示さないで代理行為をした場合は、その意思表示の効果は、代理人に生じることになります(100条本文)。代理人が本人の為にすることを示さなかった場合は、相手方は代理人が自己のために意思表示をしていると信じてしまうのが通常だかり、そうした相手方を保護する必要があるからである。しかし、この制度はあくまで相手方を保護するためのものなので、相手方が本人の為にすることを知っているか、または過失で知らなかったときは、直接本人に効果が帰属することになります(同条ただし書)。
100条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、または知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。
代理行為があること
代理権の授与や顕名があっても、そもそも代理行為がなければ本人に帰属すべき法律効果も生じないので、代理人と相手方の間で代理行為が行われる必要があります。
以上3つの要件を満たせば、代理人による法律行為の効果は本人に帰属します。
なお、代理人は行為能力者である必要はありません(102条)。すなわち、制限行為能力者でも代理人になることができます。なぜなら、代理行為の効果は本人に帰属し、代理人には何らの利益・不利益も生じないので、制限行為能力者制度により保護する必要がないからである。例えば、AがBに、Cと売買契約を締結する代理権を授与し、BがCと売買契約を締結した場合に、たとえBが未成年者であっても、AはBが未成年者であることを理由にCとの売買契約を取り消すことはできません。
代理行為の瑕疵
もちろん、代理行為の効果が本人に帰属するための前提として、代理行為が有効でなければなりません。
それでは、代理行為に瑕疵があるかどうかを判断する場合、本人・代理人いずれの意思を基準に判断すればいいのでしょうか。
代理行為は、あくまで代理人が行う意思表示によってなされるから、意思の不存在(心裡留保、虚偽表示、錯誤)、詐欺、強迫、またはある事情を知り、もしくは知らないことについて過失があるかどうかという事実は、代理人にそれがあるか否かで決められる(101条1項)。
しかし、代理行為の効果はあくまで本人に帰属するので、代理人が詐欺・強迫を受けた場合に取消権を有するのは、原則として本人です。もちろん、代理人に取消しの権限が与えられている場合は、代理人も取り消すことができます。
なお、特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情や過失により知らなかった事情について代理人が知らなかったことを主張できない。
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