代理の意義と種類
代理とは
人が同時に2つのことをすることは、物理的に不可能です。例えば、AはCに土地を売りたいけど、仕事が忙しくてなかなかCのところに出かけられない状況を想定してください。土地の売買契約の締結は法律行為なので、原則として売主であるAが売買契約の締結を行います。しかし、Aは早く土地を売りたい、Cも早く土地を手に入れたい状況で、Aしか売主として契約を締結できないとなると、AC間の売買契約はいつまでも締結できないことになってしまいます。
そこで認められたのが代理です。代理とは、法律行為の当事者が別の人に法律行為を行ってもらい、その法律行為の効果をその当事者に帰属させる制度のことです。例えば、Aさんは忙しくてもCとの売買契約の締結をBに頼めば、Aは仕事を休むことなく、Cとの売買契約の締結をすることができます。売買契約の締結はBが行いますが、売買契約の効果はあくまでAに帰属します。
99条1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
そして、Bのような人を「代理人」といい、Aのような人を「本人」、Cのような人を「相手方」といいます。これはどのテキストでも共通の呼び名として使われているので覚えておくと良いと思います。
そして、本人が法律行為を依頼する人に一定の権限を付与することを代理権の授与といい、代理人と相手方との間で行われる法律行為のことを代理行為といいます。今回の例で説明すると、AがBに、Cと売買契約を締結する権限を授与することを代理権の授与といい、BC間で締結される売買契約のことを代理行為といいます。
代理の種類
任意代理
本人の意思に基づいて代理権が授与される場合を、任意代理といいます。任意代理権は、委任契約(民法643条)で授与されることが多いので「委任による代理」ともいわれることもあります。
643条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
法定代理
本人の意思に基づかないで代理権が授与される場合を法定代理といいます。法定代理には、本人と一定の関係のある者が法律上当然に代理権を取得する場合や本人以外の人の協議・指定により定める場合、裁判所が選任する場合があります。
具体例としては、まず、親権者が子を代理する場合がありますが、親権者は子と親子関係を有するので、親権者には法律上当然に子を代理する権限が付与されます。また、後見人が被後見人を代理する場合がありますが、この場合は、本人以外の人の協議・指定により後見人が定められるか、裁判所が後見人を選任することによって、後見人に代理権が付与されます。
代理権の範囲と制限
代理権の範囲が定められている場合
代理権の範囲は、法定代理の場合であれば、代理権の範囲は当事者の意思により決定される一方、法定代理の場合であれば、民法の規定により決定されます。
代理権の範囲が定められていれば、代理人はその範囲内の行為しかすることができないのが原則です。
代理権の範囲を定めていない場合
通常は、上述した通りに代理権の範囲が定められますが、代理権の範囲が定められていない場合があります。その場合の代理権の範囲は、以下の3つだけです。
- 保存行為(代理の目的である物または権利を現状のまま維持する行為。具体例としては家屋の修繕が挙げられる。)
- 利用行為(代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲で、使用・収益する行為。具体例としては、家屋を賃貸することが挙げられる。)
- 改良行為(代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲で、その価値を増加させる行為。具体例としては家屋に造作を施す(クーラーをつける等)ことが挙げられる。)
※代理の目的である物または権利の性質を変えるというのは、例えば、家屋を建て替えるような場合です。
上記3つは、本人に利益をもたらす行為なので、代理権の範囲が定められていない場合でも、代理人が行うことを認めたのです(103条)。
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