保証債務
保証債務とは
保証債務とは、債権者に対して、主たる債務者の債務の履行を担保することを内容とする債務です(446条1項)。そして、自己の債務を保証債務によって担保してもらう者を主たる債務者、保証債務を負担するものを保証人といいます。
446条1項 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しない時に、その履行をする責任を負う。
図では以下のように書きます。
ここで注意してほしいのは、保証債務は、あくまで債権者と保証人となる者との間の契約(保証契約)によって生じるということです。主たる債務者と保証人となる者の契約によって生じるわけではありません。よく、債務を負っている人から保証人になってくれと頼まれて保証人になったという話を聞きますが、これはあくまで個人的にお願いしているだけであって、保証人となる人が契約するのはあくまでも債権者です。ただ、後で保証人が主たる債務者に求償権を取得した場合に、債務者に委託されているか否か、債務者の意思に反するか否かで、債務者に請求できる金額が異なってきます。求償権とは、本来債務を支払うべき者の代わりに債務を弁済した者が、その者に対して持つ返還請求権のことです。これについては、後ほど詳しく解説します。
保証契約で保証される債務は、貸金返還債務や売買代金支払債務といった金銭債務についてはもちろん、土地の引渡債務などのような金銭債務以外の債務についても、将来、債務不履行が生じた場合の損害賠償債務や解除された場合の原状回復義務を保証するために成立します。
そして、保証契約は書面で行わなければ、その効力を生じません(446条2項)。これは、保証人になると、主たる債務者が負担する債権、その利息、違約金、損害賠償その他債務に従たるすべてのものを保証するという重大な責任を負うことになるので、安易に保証人になることを防止するためです。
446条2項 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
保証債務の性質
保証債務は、あくまで主たる債務 とは別個・独立の債務ですが、あくまで主たる債務を保証するための債務なので、以下のような性質があります。
付従性
主たる債務がなければ保証債務は成立せず、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅します。
そして、保証債務は主たる債務よりも重いことはあり得ません。例えば、主債務が500万円であるのに対し、保証債務が700万円ということは認められません。この場合、保証債務の額は主たる債務の額(今回の例では、500万円)に減縮されることになります(448条)。しかし、債権者と保証人との間で、別途、保証債務についての違約金や損害賠償の額を定めることができます(447条2項)。これらは、保証債務の履行を確実にするためのものにすぎないからです。
448条 保証人の負担が債務の目的または態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。
447条2項 保証人は、その保証債務についてのみ、違約金または損害賠償の額を約定することができる。
主たる債務の時効が中断した場合、その効力は保証人にも及び、保証債務の時効も中断されます(457条1項)。
保証債務の付従性という性質から、主たる債務者が債権者に対して有する抗弁権は、保証人も主張することができます。また、主たる債務者が、自己が負担する債務を、債権者に対する反対債権と相殺した場合は、保証人も、その相殺をもって債権者に対抗できます(同条2項)。
457条1項 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2項 保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
随伴性
主たる債務に対する債権が移転すれば、それに伴って保証債務も移転します。
補充性
保証債務は、主たる債務が不履行になった時のための債務だから、主たる債務者が履行しない場合にはじめて履行すればよいです。これを補充性といいます。
補充性の表れとして2つの制度が規定されています。
催告の抗弁権(452条)
保証人は、債権者から請求を受けた場合、まずは主たる債務者に催告をすべきことを請求することができます。これを催告の抗弁権といいます。ただし、主たる債務者が、破産手続開始の決定を受けたとき、または行方不明となっているときは、保証人は催告の抗弁権を行使することができません。
452条 債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、またはその行方が知れないときは、この限りでない。
検索の抗弁権(453条)
保証人が、主たる債務者から強制執行を受けそうになったときは、保証人は、主たる債務者に弁済する資力があり、かつ、その資力を担保する財産に対して執行が容易であることを証明して、まず主たる債務者の財産に強制執行するように主張することができます。これを、検索の抗弁権といいます。
453条 債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。
保証債務の範囲
保証債務の範囲は、特約がない限り、主たる債務に加えて、利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものが含まれます(447条1項)。
447条1項 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他の債務に従たるすべてのものを包含する。
このように、保証人の責任はかなり重いので、簡単になるものではありません。
保証人の求償権
求償権とは、本来債務を支払うべき者の代わりに債務を弁済した者が、その者に対して持つ返還請求権のことです。
求償権の範囲は以下の場合によって異なります。
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証人となった場合
求償権の範囲は、弁済額の他、弁済後の利息およびその他の損害賠償です(459条1項、442条2項)。
保証人が主たる債務者の委託を受けないで保証人となり、それが債務者の意思に反しない場合
保証人は、保証人が主たる債務者に弁済した当時に、主たる債務者が現に利益を受けていた限度において、主たる債務者に対して求償することができます(462条1項)。
とすると、保証人は、弁済以後の利息やその他の損害賠償を請求することはできません。
462条1項 主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは、主たる債務者は、その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。
保証人が主たる債務者の意志に反して保証人となった場合
保証人は、主たる債務者が現に利益を受けている限度において、主たる債務者に求償できます(同条2項)。なので、保証人が弁済してから求償するまでの間に、主たる債務者が債権者に対して反対債権を取得していれば、主たる債務者はこれを持って保証人の求償権と相殺することができます。その結果、求償権は消滅するので、保証人は元々消滅するはずであった主たる債務者が有する反対債権の弁済を債権者に行使することになります。
462条2項 主たる債務者の意思に反して保証をした者は、主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において、主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
連帯保証
連帯保証とは、保証人が主たる債務者と連帯して保証債務を負担する保証形態のことです。
連帯保証の性質
連帯保証も保証の一種なので、付従性と随伴性を有しますが、補充性はありません。この連帯保証によって保証人となる者のことを連帯保証人といいます。
したがって、以下2つの特徴があります。
連帯保証人には、催告の抗弁権と検索の抗弁権がない(454条)
債権者が連帯保証人に請求してきても、連帯保証人は、まず主たる債務者に催告することを主張することはできません。
また、債権者がいきなり連帯保証人の財産に強制執行をしてきても、何も主張することはできません。
連帯保証人には、分別の利益がない
分別の利益とは、分割することによって得られる利益のことです。
例えば、二人の保証人で500万円の債権を保証している場合は、各保証人には分別の利益があるので、各保証人はそれぞれ250万円を支払えば保証人としての責任を果たしたことになります。そして、各保証人は、主たる債務者に対して250万円ずつ求償することになります。
一方、二人の連帯保証人で500万円の債権を保証している場合は、各連帯保証人には分別の利益がないので、各連帯保証人は他の一方が弁済をしない限り、500万円全額を支払わなければ連帯保証人としての責任を果たしたことにはなりません。
ちなみに、連帯保証人の一人が債権者に対して500万円弁済すれば、その連帯債務者は主たる債務者に500万円、他の連帯債務者に250万円求償できます。
このように、連帯保証の場合は、債権者は複数の連帯保証人に対し債権全額の支払を請求することができるので、連帯保証は債権者にとって有利な制度といえます。
主たる債務者について生じた事由の効力
主たる債務者について生じた事由は、保証債務の付従性により、すべて連帯保証人に影響すると解されています。例えば、主たる債務が弁済・時効・免除によって消滅すれば、保証債務も消滅します。
連帯保証人について生じた事由の効力
連帯保証人に生じた事由のうち、相殺(436条2項)・免除(437条)・時効(439条)については、主たる債務に影響しません。これらの規定は、連帯債務者の負担部分を前提とする規定なので、そもそも分別の利益がない連帯保証にはなじまないからです。
しかし、債権者が連帯保証人に対して請求したときは、主たる債務についても時効中断の効力が生じます(458条、434条)。
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