一般不法行為

不法行為とは

不法行為(709条)とは、ある者が、故意または過失によって、他人の権利や法律上保護された利益を侵害する行為のことです。

不法行為を行った人を加害者、不法行為をされた人を被害者といいます。

709条 故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為の成立要件

故意・過失があること

人は、自己の行為にさえ注意をしていれば、他人に損害を与える結果が生じても、不法行為責任を負わされることはありません(自己責任の原則)。

そこで、不法行為責任を問われるためには、自己の行為に故意または過失があることが必要です。

故意とは、自己の行為により他人の権利・利益を侵害することを認識しながら、あえてその行為を行うことをいいます。過失とは、自己の行為により他人の権利・利益を侵害することを認識することができたにもかかわらず、不注意によってそれを認識せずに、その行為を行うことをいいます。

責任能力があること

不法行為が成立するためには、加害者に責任能力があることが必要です。責任能力とは、自己の行為が違法なものとして法律上非難されるものであることを弁識できる能力のことです。

以下の者には責任能力がありません。

責任能力を欠く未成年者(712条)

未成年者が不法行為をした場合、その「行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは」、損害賠償責任を負いません。

未成年者すべてが責任能力を欠くわけではありませんが、一律に何歳とも決められていません。実務上は12歳くらいが基準とされています。

712条 未成年者は、他人に損害を与えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある者(713条)

こうした者も、不法行為による損害賠償責任を負いません。しかし、故意・過失によって自らその状態になった場合は、行為者は損害賠償責任を負うことになります(同条ただし書)。

713条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

違法性があること(権利侵害があること)

侵害の対象となる権利は、法律上保護されている権利に限られません。不法行為によって何らかの法益が侵害されれば、違法性があることになります。

違法性阻却事由がないこと

違法性阻却事由とは、違法性がなくなる事由のことです。具体的には以下の場合に違法性阻却事由が存在することになります。

正当防衛・緊急避難行為(720条)

民法720条
第一項 他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
第二項 前項の規定は、他人の物から生じた緊急の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

例えば、AがBを殴ろうとしている時に、CがBの身体を守るためにAを突き飛ばした場合、CはAを突き飛ばしたことに対する不法行為責任を負いません。

被害者の承諾があるとき(ただし、その承諾が公序良俗に反しないものでなければなりません)
正当業務行為

正当業務行為の具体例としては、医者による手術やボクシング選手によるパンチがあげられます。どちらの行為も他人の身体に対する侵害行為ですが、これらは正当な業務の遂行のために行われていることなので、違法性が阻却されます。

損害が発生していること

損害には、財産的損害だけでなく、精神的損害も含みます。ちなみに、精神的損害に対する損害賠償のことを慰謝料といいます。

因果関係があること

侵害行為と損害の発生との間に因果関係がなければなりません。因果関係とは、社会通念上、この原因がなければ結果も発生していなかったという関係のことをいいます。

効果

 損害賠償請求権の発生

不法行為が成立すると、被害者から加害者に対する損害賠償請求権が発生します(709条)。

損害賠償の方法は、金銭賠償によるのが原則です(722条1項、417条)。

722条1項 417条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。

417条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

損害賠償の範囲

不法行為者が賠償すべき損倍の範囲は、加害行為と相当因果関係の範囲内で生じた損害に限られます。

財産的損害には、被害者が現実に被った損害(積極的損害)だけでなく、不法行為がなければ得られたであろう利益の喪失(消極的損害)も含まれます。

過失相殺

被害者にも過失があったときは、裁判所は、加害者と被害者の公平を図るために、損害賠償額算定の際にそのことを考慮することができます(722条2項)。

722条2項 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

不法行為の損害賠償請求権の性質

遅延利息の発生時期

不法行為による損害賠償債務は、不法行為のときから遅滞に陥ると解されています。遅滞に陥ると、年5分の法定利率が発生します。

相殺の禁止

相殺のところの相殺の要件の「受働債権が不法行為により生じている場合」を参照してください。

消滅時効

不法行為による損害賠償請求権は、被害者または法定代理人が損害および加害者を知ったときから3年、または不法行為のときから20年経過することによって消滅します(724条)。3年という期間は時効期間ですが、20年という期間は除斥期間と解されています。

胎児による損害賠償請求

胎児には、原則として権利能力がないのですが、損害賠償請求については、例外的に権利能力を有します(721条)。

例えば、胎児が生まれる前に、胎児の父親が、対向車線の運転手の不注意により交通事故で死亡した場合、胎児に権利能力が認められなければ、胎児はその交通事故の加害者に損害賠償を請求(711条)することができません。胎児が生まれる時期によって、損害倍層請求ができるかどうかが決まってしまうのは、胎児にとって不公平な結果となります。そこで、損害賠償請求については、胎児にも権利能力が認められたのです。

711条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者および子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

民法721条 胎児は、損害賠償の請求については、既に生まれたものとみなす。

 

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