時効の援用と時効利益の放棄

時効の援用

時効の援用とは、時効によって利益を受ける者が、時効の利益を受ける旨の意思を表示することです。

時効制度は、永続した事実状態を尊重して、占有者を保護する制度ですが、中にはその利益にあずかることを好まない人もいます。そこで、民法では、時効が完成しても、時効を援用するかどうかについては当事者の意思に委ねることにしています。条文上は、「占有をした者は、・・・所有権を取得する」(162条1項2項)や、「行使する者は、・・・権利を取得する」(163条)と規定されていますが、当事者が時効を援用することによってはじめて確定的に所有権や権利を取得すると考えられています。

したがって、裁判所は、当事者が時効の援用をしなければ、当事者が時効取得したことを前提に裁判をすることができないことになります(145条)。

145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

時効を援用することができるのは、時効によって直接に利益を受ける者とその承継人です。例えば、土地の取得時効の場合であれば、時効取得者から地上権や抵当権の設定を受けている者などです。しかし、土地と建物はあくまで別個の不動産なので、土地上に建てた建物の賃借人は、援用することはできません。消滅時効の場合であれば、債務者だけでなく、保証人、連帯保証人、連帯債務者、物上保証人、抵当不動産の第三取得者も時効を援用できます。

時効利益の放棄

時効利益の放棄とは、時効が完成しても、時効の利益を受けないという意思を表示することです。時効の利益を受けるかどうかは当事者の意思に委ねられますが、時効制度はあくまで占有者や行使者を保護するための制度なので、時効の利益をあらかじめ放棄することはできません(146条)。もし、時効の利益をあらかじめ放棄することができるとすると、債権者が債務者にお金を貸すに当たり、消費貸借契約時に時効の利益を放棄させることが生じかねず、時効制度の存在意義がなくなってしまうからです。

146条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。

 

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