時効の効果
時効の遡及効
時効の効果は、その起算日にさかのぼります(144条)。起算日とは、占有者や行使者(以下、占有者等)が占有を開始した時点を指します。例えば、善意無過失のAが土地の占有を開始し、その後10年間占有を継続すれば、土地の所有権を取得しますが、Aは占有を開始した時から所有者であったことになります。これを時効の遡及効といいます。
144条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
時効制度は、永続した事実状態を尊重して、占有者等を保護する制度です。なので、民法では、時効の効果が遡及させることによって、占有者等を保護することにしたのです。
もし、時効の遡及効がなければ、占有者等は時効完成時から権利者であることを認められるにすぎないことになり、それは占有者等による占有開始時から時効完成時までの占有が不法占拠として扱われることを意味します。すると、占有者等は、その権利の帰属を争う者から、不法行為に基づく損害賠償請求(709条)されてしまう可能性があります。
こういったことを防ぐために、時効の遡及効が規定されました。
時効の起算日
時効の起算日とは、時効期間の計算が始まる日のことをいいます。取得時効の起算日は、前述した通り、物や権利の占有を開始した時です(162条、163条)。消滅時効の起算日は、権利を行使することができる時です(166条1項)。「権利を行使することができる時」とは、実際に権利を行使することができるようになった時を意味し、あらかじめ決められた債権の期限により異なります。
166条1項 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
確定期限の定めのある債権は、期限が到来した時です。
不確定期限の定めのある債権については、不確定の事実が生じた時です。例えば、Aが死んだら債務を弁済するという約束がされた場合、「権利を行使することができる時」、すなわち、債権者が債務者に債務の支払を請求できる時は、Aが死亡した時です。あくまで権利の行使が可能となる時なので、債務者がAの死亡を知っている必要はありません。ちなみに、債務者がAの死亡を知ったときから、債務者は履行遅滞となります。
期限の定めがない債権は、債権成立の時です。期限の定めがない以上、いつでも請求ができるからです。ただし、消費貸借においては、貸主が返還を請求する場合には、相当の期間を定める必要があるので(591条1項)、消滅時効は消費貸借成立時から相当の期間が経過した時に進行を開始します。
例えば、BがAから100万円を借りた場合、BはAから借りたお金を使い、弁済期までに新たに100万円を用意してBに返済することになります。そして、Bは、Aから借り受けた100万円そのものをBに返済するのではなくて、Aから借りた100万円を消費してしまって、新たに用意した100万円を弁済期に返済します。このように、消費貸借とは、同種・同品質・同量の物を返還することを約して、物を借りる契約です。
587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質および数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
591条1項 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
停止条件付の債権は、その条件が成就したときです。
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