時効の中断
時効中断の意義
時効は、本来あるべき状態と実際にある状態のいずれが正しいかどうかの判断をすることなく、永続した事実状態を尊重し、占有者や行使者(以下、占有者等という)に物や権利を取得させてしまう制度です。
しかし、実際にある状態を争う者は、占有者等が物や権利を取得するのを黙って見ているしかないとすると、それは酷です。
そこで、認められたのが、時効の中断です。時効を中断させることで、時効取得につながる可能性のある事実状態を覆すことにより、時効の進行を止め、既に経過してきた時効期間はなかったことになってしまいます。
時効中断事由
時効の中断事由は、以下の3つです。
請求(147条1号)
ここでの請求とは、裁判上の請求を指します。
裁判上の請求とは、裁判を起こして自己の権利を主張する行為のことです。一般的に使われる「請求」の意味とは少し異なります。裁判上の請求がされると、訴えを提起した時に時効が中断します。ただし、訴えが却下されたり、取り下げられたりした場合は、時効中断の効力は生じません(149条)。
149条 裁判上の請求は、訴えの却下または取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。
また、他の債権者が強制執行の手続をした場合、その手続の過程で自己の債権を届け出ただけでは、裁判上の請求をしたことにはならず、時効は中断しません。
催告とは、口頭や書面により相手方に義務の履行を求める行為のことです。例えば、債権者が債務者に対して「借金を返済してください」と催促する場合です。こちらの方が、一般的な「請求」の意味に近いかもしれませんが、民法上では催告といいます。
催告でも時効は中断しますが、あくまで6カ月間だけです。その間に裁判上の請求などの請求や差押え・仮差押え・仮処分をしなければ、時効は中断しません(153条)。
なお、はじめに催告をしてから6カ月以内に再度催告をしても、さらに6カ月間時効中断の効力が引き延ばされることはありません。
差押え・仮差押え・仮処分(147条2号)
差押えは一般的に強制執行といわれるもので、仮差押え・仮処分は裁判の前に、強制執行を確実に行うために行われる保全手続です。いずれも、強力な権利実現行為なので、時効の中断事由です。
ちなみに、仮差押えは金銭債権を保全するために行われるもので、仮処分は金銭債権以外の権利を保全するために行われるものです。
例えば、Aが裁判を起こして、Bに対する債権の支払を請求し裁判に勝っても、裁判が確定した時に、Bに財産がなければその勝訴判決は紙切れになってしまいます。そこで、Bが裁判中に自己の財産を他人に移転することを防ぐために、裁判の前にBの財産の仮差押えをしておくわけです。正確には、たとえBの財産の仮差押えがされていても、Bは裁判中に自己の財産を他人に移転し登記をすることもできますが、仮差押えの被保全債権の存在が裁判で確定され、仮差押えが本差押えに移行すれば、Bの財産の譲受人は、その目的物の権利の取得について、仮差押債権者に対抗できなくなります。
みなさんに理解を深めて頂くために例を書いてみましたが、かなり細かいことなので、何となくイメージをつかんで頂ければOKです。おそらく宅建士試験で細かく聞かれることはないと思います。
仮差押え・仮処分は、強制執行を確実に行うために行われる保全手続で、それを行うことで時効は中断するということを覚えておけば十分です。
承認(147条3号)
承認とは、時効によって利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利の存在を認める意思を表示することです。例えば、債務者が債権者に対して「もう少し弁済を待ってください」とお願いした場合、債務者は債務の存在を認める意思を表示したことになるので、承認に当たり、債権の消滅時効は中断することになります。請求の場合と異なり、特別の手続は不要なので、口頭でも可能です。
要するに、以上3つの事由は、権利者が権利を主張するか、義務者が相手方の権利の存在を認めることです。
これによって、既に経過してきた時効期間がなかったことになるのです。
時効中断の効果
時効が中断すると、今まで経過した時効期間はすべてなかったことになり、再度新たに時効期間が進行することになります。裁判上の請求の場合、裁判には時間がかかるので、裁判が確定するまで時効は中断したままで、判決が確定したときから再度新たな時効が進行することになります(157条2項)。
157条2項 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。
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