危険負担

危険負担とは

危険負担とは、双務契約において、その目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失または損傷したときに、他の債務はどうなるのかという問題のことです。例えば、AからBへ建物を売買する契約が締結された後、Aが引き渡すべき期日の前に、建物が落雷で火事になり滅失した場合、Bはその建物の代金を支払うのか否か、という問題が危険負担です。

なお、契約締結時にすでに建物が滅失していた場合は、危険負担の問題とはなりません。この場合は、契約締結時に目的物が存在していないことになるので、そもそも契約が有効に成立していません。

上述した例において、仮に、建物が滅失してもBがその代金を負担しなくてもよいとすれば、履行不能になることによって債務が消滅することの危険は債務者Aが負担することになります。これを債務者主義といいます。一方、建物が滅失したもBがその代金を負担しなければならないとすれば、履行不能になることによって債務が消滅することの危険は債権者Bが負担することになります。これを債権者主義といいます。

ここで、債務者・債権者という言葉が出てきますが、この例では建物引渡義務が履行不能になっているので、建物引渡義務に着目して債務者をA、債権者をBと考えます。

債権者主義・債務者主義いずれが適用されるか

債権者主義が適用される場合

特定物に関する物権の設定・移転を目的とした双務契約においては、債権者主義が適用されます(534条1項)。

534条1項 特定物に関する物権の設定または移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、または損傷したときは、その滅失または損傷は、債権者の負担に帰する。

特定物とは、当事者がその個性に着目しているもののことで、不動産はすべて特定物に当たります。なぜなら、不動産は、たとえ外観が同じ分譲住宅であっても、窓から見える景色がそれぞれ異なるという点から、取引に当たってその個性に着目されるという性質があるからです。

物権とは、物権という編で出てきた所有権や地上権、永小作権、抵当権、質権などのことです。

そうした物権を設定・移転する双務契約においては、債権者主義が適用されます。例えば、建物の売買契約は、建物である特定物に関する所有権という物権を移転することを目的とした双務契約ですから、契約締結後、引渡期日前に、建物が落雷で滅失または損傷した場合でも、買主は売主に建物の代金を全額支払わなければなりません(代金の減額請求をすることもできません)。

ただ、この規定については公平の見地から疑問の声があがっており、しかも任意規定なので、実務上は特約で排除されることが多いです。

停止条件付双務契約の場合

本来であれば債権者主義が適用される契約において条件が定められている場合、条件の成否が未定である間に、目的物が滅失した場合には、債務者主義が適用されます(535条1項)。また、債務者の責めに帰することができない事由により損傷した場合には、債権者主義が適用されます(535条2項)。

535条1項 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2項 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。

停止条件付双務契約の場合は、条件の成否が未定である間は目的物に関する利益が債権者に確定的に帰属したとはいえないので、目的物が滅失した場合にまで、債権者に代金支払義務を負わせるのは酷なので、債務者主義が適用されます。(一方、損傷した場合は、ある程度債権者に負担させても、滅失程酷ではないことから債権者主義が適用されるものと考えられます。)

債務者主義が適用される場合

上記以外の契約では、当事者双方の責めに帰することができない事由により一方の債務の履行が不能となった場合には、債務者主義が適用されます(536条1項)。例えば、賃貸借契約は債権の設定なので、特定物に関する物権の設定・移転を目的とした双務契約には当たりません。この場合は、債務者主義が適用されることになります。

536条1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

債権者の帰責事由により履行不能となった場合

債権者の責めに帰すべき事由により債務が履行不能となったときは、債務者は反対給付を受ける権利を失いません。ただし、債務者は自己の債務を免れたことによって得た利益を債権者に返還しなければなりません(536条2項)。

536条2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

例えば、コンサートの主催者Aがスケジュール調整を誤って歌手Bを出演させることができなくなった場合、歌手Bはたとえコンサートで歌を歌っていなくても全額のギャラをAに請求することができます。ただし、歌手Bがそのコンサートに出られなかった代わりに、別のコンサートに出演してギャラをもらっていた場合には、そのギャラ分をAに返還しなければなりません。つまり、たとえ相手方の帰責事由により債務の履行が不能となったとしても、二重取りは許されないということです。この場合、歌を歌う債務が不履行となっているので、歌を歌う債務に着目して債権者をA、債務者をBと考えます。

 

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