無権代理

無権代理とは

無権代理とは、代理権が授与されていないにもかかわらず、代理人と称して行われた行為のことです。

無権代理には、表見代理が成立する場合とそうでない場合があり、後者を狭義の無権代理といいます。ここでは、狭義の向けん代理について説明します。

無権代理の構造

例えば、Bが、Aから何も依頼されていないのに、Cと勝手に土地の売買契約を締結した場合を考えてみてください。この場合、BはCとの売買契約を締結する権限を与えられていないので、BはAの代理人ではありません。とすると、BC間で売買契約が締結されても、Aの追認がない限り、その法律効果は原則としてAに帰属しません(民法113条1項)。

113条1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2項 追認またはその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

また、追認や追認の拒絶は、無権代理人ではなく、相手方に直接しなければ、相手方に対抗することはできません。ただ、無権代理人対してした場合でも、相手方が追認や追認拒絶の事実を知った場合には、対抗できます。

無権代理

一方、Aが追認をすれば、その行為は、さかのぼって有効な代理行為として本人に帰属します。

無権代理は以下の3パターンがあります。

代理人が顕名をした場合

無権「代理」というくらいですから、あくまで無権利者が本人の代理人であると偽って法律行為を行うこと(顕名)が想定されています。本事例でいうと、Bが「AからCとの売買契約の締結を依頼された」(本当は依頼されていないのに)とCに伝えて売買契約を締結した場合です。

代理人が本人の名で相手方と法律行為を行った場合

本事例で言うと、Bが「私はAです」と名乗ってCと売買契約を締結した場合です。代理人が本人自身であると偽っているだけなので、無権「代理」とは言えないようにも思えます。しかし、この場合も相手方が「取引相手は本人である」と信じている点で、代理人が顕名をした場合と似ています。

自己契約・双方代理(108条)

自己契約とは、自己の法律行為について相手方の代理人となることです。双方代理とは、一人の代理人が契約の当事者双方の代理人となることです。

自己契約と双方代理は、本人の利益を害する可能性が高いので、できません(108条本文)。これに違反した行為は、無権代理行為として扱われることになります。

しかし、自己契約と双方代理ができないとしているのは、あくまで本人保護のためです。ですから、本人が同意した場合は、あえて保護する必要はないので、自己契約・双方代理も認められます(同条ただし書)。また、債務の履行のように既に決定されていることを遂行する場合には、本人の利益を害するおそれがないので、同様に認められます。

これら場合も無権代理の規定が適用されます。

これは無権代理じゃないから注意!

代理人が本人に無断で、代理人自身の名で相手方と法律行為を行った場合は、無権代理ではありませんので注意してください。

どこが違うかわかりますか?

何が違うかというと、代理人が自分自身の名を語っているという点です。本事例でいうと、Bが「私はBです」と名乗って、Aの土地をCに売却した場合です。この場合、CはBが取引の相手方であると信じているだけであり、契約の時点でそもそもAという人物が売買契約に関わるということをCが認識してないので、無権代理として論じることはできないのです。

ちなみに、この場合は、Aの土地がBC間で他人物売買(民法560、561条)として処理することになります。

相手方を保護するための規定

催告権(114条)

相手方は、無権代理人の行為について本人に対して相当の期間を定めて、無権代理人の行為を追認するか否かの確答を求める催告をすることができ、その期間内に本人が確答しない場合には、追認を拒絶したものとみなされる。

この催告は、善意無過失であればもちろん、善意有過失・悪意でもすることができます。

114条 前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。

取消権(115条)

また、代理行為の時点で、相手方が、無権代理であることを知らなかった場合(善意)は、本人が追認する前であれば、代理行為を取り消すことができる。

115条 代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。

無権代理人に対する責任追及(117条)

さらに、無権代理人が、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方は、無権代理人に対して、契約の履行または損害賠償の責任を追及することができる(117条1項)。ただし、相手方が無権代理であることについて悪意有過失であるか、無権代理人が行為能力を有しなければ、契約の履行や損害賠償の責任を追及することはできない(同条2項)。無権代理人への責任追及をするためには、相手方は善意無過失でなければなりません。

117条1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う。
2項 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、もしくは過失によって知らなかったとき、または他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

無権代理と相続

無権代理人が本人を単独で相続した場合

この場合、無権代理人は無権代理行為を行った張本人であるから、信義則上、本人が有していた追認拒絶権を行使できないので、無権代理人が行った代理行為は当然に有効となります。

本人が無権代理人を相続した場合

この場合、本人は無権代理行為を行ったわけではないから、追認拒絶権を行使しても信義則に反しません。よって、本人が無権代理人を相続しても、無権代理人が行った代理行為は当然に有効とはなりません。

もっとも、本人は相続により無権代理人の地位を包括承継するので(896条)、無権代理人の責任(117条)は承継せざるを得ません。

 896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。

したがって、いずれが死亡した場合でも、相手方は相続人(本人または無権代理人)に対して、無権代理人としての責任を追及することができます。

 

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