連帯債務
連帯債務とは
連帯債務とは、複数の債務者が同一内容の債務について、各自が独立してすべての責任を負う債務関係のことです。この連帯債務を負担する者を連帯債務者といいます。
そして、各連帯債務者が負担する債務はそれぞれ独立していますが、主従関係にない点で保証や連帯保証と異なります。
例えば、1億円の土地を二人で購入した場合、各買主はそれぞれ5,000万円の債務を負担すればよいのが原則です(427条)。これを分割債務の原則といいます。しかしこれでは、売主が一方の買主から5,000万円を回収したとしても、他の一方の買主から確実に5,000万円を回収できるとは限らず、残りの5,000万円を回収できないおそれがあります。そこで認められたのが、連帯債務という制度です。この制度によって、債権者が債権の全額をそれぞれの連帯債務者に請求することができ、そうしたおそれを回避することができます。連帯債務の制度は、債権の効力をより強める機能を持っているといえます。
連帯債務の発生原因
連帯債務は、法律の規定(719条、761条等)によって発生することが多いですが、契約によって発生することもあります。
そして、債権者が、連帯債務者となる者それぞれとの間で契約をすることもできますし、複数の連帯債務者となる者との間で一つの契約をすることによって連帯債務を生じさせることもできます。一つの契約によて連帯債務を生じさせた場合は、たとえ連帯債務者の一人に取消し・無効原因があっても、それ以外の連帯債務者との間では有効に成立します(433条)。
433条 連帯債務者の一人について法律行為の無効または取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられない。
連帯債務の効力
連帯債務においては、債権者は、一人または数人、あるいは全員に対して債権の全額または一部を請求することができますが、もし数人や全員に対して請求する場合は、同時にまたは順次に請求することができます(432条)。
432条 数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、または同時にもしくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部または一部の履行を請求することができる。
連帯債務は、あくまでも一つの債務を満足させることを目的に設けられた制度なので、弁済や代物弁済、供託の効力は他の連帯債務者にも及び債権は消滅します。
連帯債務者の一人について生じた事由が他の連帯債務者にも効力が生じることを絶対的効力といい、他の連帯債務者には効力が生じないことを相対的効力といいます。
以下、それぞれについて見ていきます。
絶対的効力を有する事由
履行の請求
債権者が連帯債務者の一人に対して履行の請求をすれば、他の連帯債務者に対しても履行の請求をしたことになります(434条)。よって、時効中断の効力も全員の連帯債務者に生じます。
434条 連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。
更改
連帯債務者の一人が債権者との間で更改契約をした場合には、従来の債務は全員について消滅します(435条)。例えば、B、C、DがそれぞれAに対して連帯債務を負担している場合に、BがAとの間で更改契約をすれば、CとDは債務を免れ、Bだけが引き続き新債務を負担することになり、BはCとDに対してその負担部分を求償することになります。
435条 連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
相殺
連帯債務者の一人が、債権者に対して反対債権を有している場合において、その連帯債務者が相殺したときは、債権はすべての連帯債務者のために消滅します(436条1項)。
436条1項 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
例えば、債権者Aに対して3,000万円の連帯債務を、B、C、Dがそれぞれ均等な負担割合で負担しており、BがAに対する1,000万円の反対債権を自働債権として相殺した場合、相殺額1,000万円の範囲内でC・Dの債務も消滅します。その結果、A・B・Cはそれぞれ2,000万円の連帯債務を負担することになります。
そして、債権者(A)に対して反対債権を持っている連帯債務者(B)が相殺しない間は、他の連帯債務者(CまたはD)はその連帯債務者(B)の負担部分についてのみ相殺を援用することができます(同条2項)。
436条2項 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。
免除
債権者が連帯債務者の一人に対して債務を免除すれば、債務を免除された連帯債務者の負担部分について他の連帯債務者も債務を免れます(437条)。例えば、債権者Aに対して3,000万円の連帯債務を、B、C、Dがそれぞれ均等な負担割合で負担しており、AがBの債務を免除した場合、Bの負担部分である1,000万円についてC・Dも債務を免れることになります。その結果、Bは債務を免除されているので今後何らの債務を負担せず、C・DはAに対して引き続き2,000万円の連帯債務を負うことになります。
437条 連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。
混同
債権者と連帯債務者の一人との間で混同が生じると、その債権は消滅するので、他の連帯債務者も債務を免れます(438条)。あとは、混同が生じた連帯債務者が他の連帯債務者に対して負担部分だけを求償していくことになります。
438条 連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。
時効の完成
連帯債務者の一人に消滅時効が完成し債権が消滅すれば、他の連帯債務者も、消滅時効が完成した連帯債務者の負担部分だけ債務を免れます(439条)。
439条 連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。
相対的効力を有する事由
絶対的効力を有する事由以外の事由については、他の連帯債務者に効力が生じません(440条)。具体例としては、判決の効力(民事訴訟法115条、相対効の原則)、債務の承認、時効利益の放棄などです。
440条 434条から前条までに規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。
連帯債務者の求償関係
求償権とは、本来債務を支払うべき者の代わりに債務を弁済した者が、その者に対して持つ返還請求権のことです。
連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって他の債務者の債務を免れさせたときは、その連帯債務者に対して、各自の負担部分の割合に応じて求償することができます(442条1項)。
442条1項 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する。
求償できる範囲は、弁済その他免責があった日以後の法定利息と避けることができなかった費用その他の損害賠償を含みます(同条2項)。
442条2項 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息および避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
ただし、連帯債務者の一人であるBが債権の全額である3,000万円を債権者Aに弁済し、他の連帯債務者であるCとDにそれぞれ1,000万円ずつ求償しようとしたところ、Cが無資力であった場合、Cの負担部分である1,000万円についてはBとDがその負担割合に応じて負担します。今回の場合は、BとDの負担割合はそれぞれ1,000万円なので、均等に500万円ずつ負担することになります。
もし、Bの負担割合が500万円でDの負担割合が1,500万円であった場合は、それぞれの負担部分は、500:1500=1:3となるので、それをCの負担部分にかければ算出することができます。すなわち、Cの負担部分のうちBが250万円(=1,000万円×1/4)を負担し、Dが750万円(=1,000万円×3/4)を負担することになります。
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