債務不履行

債務不履行とは

債務不履行とは、債務者が正当な理由なく、債務の本旨に従った履行をしないことをいいます。

債務不履行となるためには、その不履行が債務者の責めに帰すべき事由によること、つまり債務者の故意または過失による必要があります。

債務不履行には、履行遅滞と履行不能、不完全履行の3タイプがありますが、特に重要なのは、履行遅滞履行不能です。

履行遅滞

履行遅滞とは、債務の履行が可能であるにも関わらず、履行期を過ぎても債務の履行がされないことをいいます。例えば、土地の売主が、引渡期日の3月15日を過ぎても引渡しをしないといった場合です。

債務者が履行遅滞になると、債権者は債務者の財産に強制執行を行ったり、契約の解除、損害賠償請求をすることができます。

履行遅滞となるためには、履行期を過ぎて履行遅滞の状態になることが必要ですが、この履行遅滞になる時期は、債務の履行期がいかに定められているかによって異なります。

確定期限の定めのある債権

定められた確定期限が到来した時から履行遅滞となります(412条1項)。例えば、3月15日までに土地を引き渡す約束をしていた場合は、3月15日が経過することによって履行遅滞となります。

412条1項 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。

不確定期限の定めのある債権

債務者がその期限の到来を知った時から履行遅滞となります(同条2項)。例えば、Aさんが死んだら、BはCに土地を引き渡すといった約束をしている場合、BがAの死亡を知ったときから履行遅滞となります。

412条2項 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。

条件付の債権

条件付の債務は、条件が成就した後に債権者が履行の請求をした時から履行遅滞となります。

期限の定めのない債権

期限の定めのない債権は債権者からいつでも請求できるわけですから、債権者が履行の請求をした時、つまり債務者が履行の請求を受けた時から履行遅滞となります(同条3項)。

412条3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

不法行為債権

不法行為債権は、不法行為時から履行遅滞となります。

消滅時効の起算点との違いを表でまとめました。この違いはよく出題されるので、完璧に覚えましょう。

消滅時効の起算点 履行遅滞の起算点
確定期限の定めのある債権 期限が到来した時 確定期限が到来した時
不確定期限の定めのある債権 期限が到来した時 債務者がその期限の到来を知った時
条件付の債権 条件が成就した時 条件が成就した後に債権者が履行の請求をした時
期限の定めのない債権 直ちに(すなわち、債権成立時) 債務者が履行の請求を受けた時
不法行為債権 被害者が加害者および損害を知った時 不法行為時

履行不能

履行不能とは、債権の成立後に、債務者の責に帰すべき事由によって債務の履行が不能になったことをいいます。例えば、建物の売買契約の締結後、引渡前に、売主のタバコの火の不始末で建物が全焼した場合は、売主は自己の過失により建物を引き渡すことができなくなったといえるので、履行不能の一例といえる。

債務が履行不能になれば、債権者は損害賠償の請求と契約の解除をすることができます。

不完全履行

不完全履行とは、債務の履行はされているが、それが不完全であることをいいます。例えば、引越業者に家具の運搬を依頼した場合、担当者が家具を乱暴に扱ったことによって、家具が破損した場合があげられます。

この場合、債務の完全履行が可能である場合は、完全履行の請求と遅滞した分の損害賠償の請求をすることができます。債務の完全履行が不可能な場合は、履行に代わる損害賠償請求をすることができます。

損害賠償請求

債権者は、債務不履行に陥った債務者に対して、損害賠償を請求することができます(415条)。

415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

損害賠償は、金銭によって支払われることが原則です(417条)。

419条1項本文 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。

損害が発生したことや損害額については、請求者(つまり、債権者)が立証する必要があります。そして、請求者が請求できる額は、債務不履行によって生じたすべての損害ではなく、債務不履行と相当因果関係のある損害に限られます。

損害賠償に関する特則

損害賠償の予定

損害賠償の予定とは、債務不履行が生じた場合に備えて、契約当事者があらかじめ賠償額を定めておくことです(420条1項前段)。

420条1項前段 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。

損害賠償の予定がされている場合、請求者は相手方の債務不履行の事実を証明するだけであらかじめ予定していた賠償額を請求することができます。請求者は損害を受けたことを証明する必要はないので、賠償額をめぐって当事者間に争いが生じることを防止することができます。そして、この場合は、たとえ実際の損害額が予定額よりも大きいこともしくは小さいことを証明しても、請求者は予定額を請求することができます。また、裁判所もこの予定額を増減することはできません(同条1項後段)。

金銭債務の特則

金銭債務とは、一定額の金銭の支払を目的とする債務のことで、以下3つの特則があります。

不可抗力

金銭債務の履行遅滞においては、その原因がたとえ不可抗力によるものであることを証明しても、賠償義務を免れることはできません(419条3項)。金銭債務は履行不能になることはあり得ません。金銭債務が履行不能になるのは、具体例でいうと日本という国自体が崩壊して日本円が使えなくなった場合を指します。なので、債務の支払のためにバイクで債務者の所に出かけたところ、途中で自己にあい債務の弁済をすることができなかったというのは、履行不能ではありません。

3項 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

損害の証明

また、債権者は損害があったことを証明する必要もありません(419条2項)。

419条2項 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。

利息

賠償額は、原則として法定利率(年5分)によって定められ、それより高い約定利率が定められていれば、その約定利率により定められます(同条1項ただし書)。

過失相殺

過失相殺とは、債務不履行において債権者にも過失がある場合には、その点を考慮して損害賠償の責任賠償額を減額することです(418条)。

418条 債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任およびその額を定める。

 

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