賃貸借の譲渡・転貸

賃借権の譲渡・転貸とは

賃借権の譲渡とは、賃借人が、賃借権自体を売買や贈与等によって他人に移転することです。

賃借権の転貸とは、賃借人が、自己の賃借人としての地位を維持したまま、目的物を他人に賃貸することです。分かりやすくいうと、又貸しのことです。

賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権の譲渡・転貸をすることができません(民法612条1項)。

612条1項 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができない。

承諾のある賃借権の転貸

賃借人が、賃貸人の承諾を得て、賃借権を転貸した場合は、賃借人は転貸人ともなり、賃借権の目的物を転借した者は、転借人となります。賃借権の転貸を承諾した賃貸人は、賃借権の転貸がされた後でも、賃貸人のままです。

賃借権の譲渡・転貸

そして、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負うことになる(613条1項前段)ので、賃貸人は賃借人(転貸人)だけでなく、転借人にも賃料の支払を請求することができます。ただし、賃貸人が転借人に請求できる金額は、賃貸料・転貸料のうちいずれか低い金額にとどまります。

613条1項前段 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。

承諾のある賃借権の譲渡

賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借権を譲渡した場合、敷金返還請求権も移転してしまうのでしょうか。

この点、もともと敷金は賃借人が支払った物である一方、賃貸人は、新賃借人に敷金を請求することができるので、賃借権の譲受人に敷金返還請求権は移転しません。

一方、賃貸人が賃貸借の目的物を譲渡した場合は、敷金返還義務も目的物の譲受人に移転します。賃借人に未払いの費用があれば、賃貸人はそれを敷金から差し引いた上で、敷金を譲受人に引き渡すことができます。

ちなみに、賃貸人が賃貸借の目的物を譲渡する場合は、賃借人の承諾は不要です。賃貸人が負う目的物を賃借人に使用・収益させる義務は没個性的な債務(だれでも履行できる債務のこと)なので、賃貸人が誰であっても、賃借人には影響がないからです。

ただし、賃貸借の目的物の譲受人が賃借人に賃料を請求するためには、賃貸人から登記を受けておく必要があります。これは、賃借人による賃料の二重払いを防止するためです。

承諾のない賃借権の譲渡・転貸

そして、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに賃借権を譲渡・転貸したときは、賃貸人は契約を解除することができます(612条2項)。

612条2項 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

しかし、賃借人が賃借権を譲渡・転貸したからといって、いつでも賃貸人による解除を認めることは妥当ではありません。よって、賃借人に背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、解除することができません。

なお、土地と建物はあくまで別個の不動産なので、借地人が、土地の上に建てた自己所有の建物を第三者に賃貸した場合は、土地を転貸したことにならないので、賃貸人の承諾を得る必要はありません。この場合は、あくまで自己所有の建物を賃貸しただけだからです。

 

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