制限行為能力者制度とは
制限行為能力者制度が制定された経緯
未成年者や精神病をかかえている人は、日常生活において正常な判断をするうとが難しいです。
未成年者は20歳未満の人のことです。
第4条(成年)
年齢20歳をもって、成年とする。
未成年者は成年者に比べ社会経験が少ないことから、正常な判断をすることができずに、言葉巧みに説得され、高額な商品を買わされてしまう可能性が高いです。
また、一時期、重度の精神病をかかえている方が、ある人に言葉巧みに誘導され、自己名義で複数の携帯電話を契約させられていたことがあり、社会問題となりました。
このように、未成年者や精神病をかかえている人は正常な判断ができないというハンデを抱えていることから、法律で保護する必要があります。
そこで、規定されたのが制限行為能力者制度です。
この制度では、制限行為能力者の意思表示は取り消すことができるように定められています。
例えば、精神病をかかえたAが、Bと100万円のバックを購入する売買契約を締結しても、その売買契約を取り消すことができます。そして、その売買契約を取り消せば、Aはバックの代金100万円を支払う必要がなくなります。
この制度では、制限行為能力者がどのような者かを規定しています。
よく勘違いされがちなのですが、精神病を抱えている人が当然に制限行為能力者となるわけではありません。
精神病を抱えた人が、家庭裁判所の審判を受けてはじめて制限行為能力者となるのです。
なので、精神病を抱えた人でも家庭裁判所の審判を受けていなければ、その人は制限行為能力者ではありませんので、制限行為能力者制度によって保護されません。
先ほどの例で考えると、仮にAが家庭裁判所の審判を受けていなければ、AはBとの売買契約を取り消すことはできません。
もっとも、精神病が重ければ、意思無能力者として保護される可能性はあります。意思無能力者とは、自分の行為によりどのような結果が生じるのかについて正常な判断ができる能力がない人のことをいいます。例えば、泥酔した人や、アルツハイマーなどの重い精神病をかかえた人のことをいいます。
こういう人たちは、自分が何をしているかわからない状態になっているので、自分が知らないうちに100万円の時計を買ってしまう可能性があります。
これらの意思無能力者が行った法律行為(契約など)は無効です。
そして、意思無能力者として保護されるためには、事前に家庭裁判所の審判を受ける必要はありません。
なので、重い精神病をかかえている人で、家庭裁判所の審判を受けていなくても、意思無能力者として保護される可能性があります。
ここで過去問を解いてみましょう。○か×かで答えてください。
自己所有の土地を売却するAの売買契約の相手方に関する問題です。
買主Cが意思無能力者であった場合、Cは、Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。(平成17年度第一問・肢2)
解けましたか?
それでは、解説していきます。
AとCは、土地の売買契約を締結しています。契約は法律行為の一種でしたね。
そして、Cは意思無能力者です。意思無能力者が行った法律行為は無効でしたね。
しかし、本問の記述では、「Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。」となっています。
取り消すことができるというのは、はじめは有効ですが、取り消すことによって無効になるという意味です。
一方、無効というのは、はじめから無効だという意味です。
そして、意思無能力者が行った法律行為ははじめから無効なので、「Aとの間で締結した売買契約を取り消せば、当該契約を無効にできる。」という記述は誤っています。
よって、本問の記述は×です。
制限行為能力者とは
具体的には、制限行為能力者とは、行為能力を有しない者のことです。行為能力とは、単独で、確定的に有効な法律行為を行うことができる能力のことをいいます。
「単独で」「確定的に」「有効な」という部分がポイントです。わかりやすく言い換えると、「一人で」「後で取り消されることなく」「有効に成立する」法律行為(契約など)を行うことができる能力が、行為能力です。
この制限行為能力者に該当するのは、未成年者と成年被後見人、被保佐人、被補助人です。
未成年者は20歳未満の人のことを指し、成年被後見人や被保佐人、被補助人は精神病をかかえており正常な判断をすることができないために家庭裁判所の審判を受けている人のことです。
成年被後見人、被保佐人、被補助人は、かかえている精神病の症状の重さによって区分けされています。
成年被後見人が最も症状が重く、未成年者よりも正常な判断をすることができないとされている人です。被保佐人がその次に重く、被補助人が一番軽い症状の人です。
順位付けとしてはこんな感じです。
成年被後見人<未成年者<被保佐人<被補助人
この順位付けは、制限行為能力者制度の問題で、判断基準として役立つので覚えておくと良いです。
そして、これらの制限行為能力者は、親権者や後見人(未成年後見人と成年後見人の総称)、保佐人、補助人などに無断で「一人で」法律行為を行うことができません。
たとえ一人で法律行為を行ったとしても後で取り消すことができるので、「確定的に」「有効な」法律行為を行うこともできません。もちろん、取り消さなければ法律行為は有効なままですが、はじめは取り消されるかどうかわからないので、「確定的」とはいえませんよね。
ちなみに、親権者というのは、父親や母親のことです。
未成年後見人というのは、親権者の代わりに未成年者を守る人のことです。
成年被後見人は、成年被後見人を守る人のことです。(詳しくは成年被後見人のページをご覧下さい)
保佐人は、被保佐人を守る人のことです。
補助人は、被補助人を守る人のことです。
詳しくは、該当箇所で説明します。
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